タイのお菓子は二度おいしい
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バタフライピーの花(青)と蘇芳(ピンク)で色づけした寒天をつめたラムヤイのデザート
ウン・ラムヤイ
透きとおった果肉の中に寒天ゼリーを流し入れた、みずみずしい旬のデザート
 
 
雨季も本番になりまとまった雨が降る7月から9月にかけて、ラムヤイは旬を迎えます。小芋のような茶褐色の実をみっしりつけた小枝が束ねられて、スーパーマーケットに並び、ラムヤイを山と積んだ小型トラックが路肩で行商しているのを目にするのもこの頃です。産地の北部ランプーン県、チェンマイ県、チェンライ県、あるいは東部のラヨーン県から運ばれてきたのでしょうか。
パリッと張りのある皮をむくと、半透明の白い果肉。実の中につやつやした丸い黒い種がひとつ入っています。かじると白い果肉に包まれた黒い種が現れてなにやら眼球のよう。その形状から龍の目玉「龍眼」と中国で名づけられたそうです。

ラムヤイは生食することが多い果物ですが、もち米と煮て温かいデザートにしたり、ローイゲーオというシロップ漬けにしたり。乾燥させた果肉を煮出してその煮汁を飲み物やお菓子に用いたりもします。乾燥ラムヤイは漢方薬のひとつとしてご存知の方もいらっしゃることでしょう。また、スイーツにとどまらず、鶏肉との煮込みやラムヤイ入りおかゆというのもあるそうです。
オンヌット市場の前で買ったラムヤイ1キロ、50バーツ。旬で値段もお手頃
種の周囲にそってナイフを垂直に入れて、小刻みに動かしながら一周したら種を抜きます。実の底に穴を開けないように注意
今回ご紹介するのは、実の中に寒天を流し入れた愛らしいデザート、ウン・ラムヤイです。透明感のある果実に寒天という組み合わせがいかにも爽やかで、以前から食べてみたいスイーツのひとつでしたが、作り手が少ないらしく今にいたるまで巡り会えません。そこでこれを機に作ってみることにしました。レシピはいたってシンプルで、種を抜いて寒天を流し込むだけです。
材料はラムヤイと粉状の寒天、砂糖、それに色づけ用のハーブティー。特別なものと言えば、種をくり抜くカービングナイフでしょうか。フルーツカービングに覚えのある方はよくご存知の平型の柄の基本的なタイプで、デパートの調理道具売り場などで購入できます。
 
 
寒天を色づけるハーブティーは2種類。バタフライピー(蝶豆)の花のお茶で青に染め、蘇芳の木のお茶でピンクに。バタフライピーはアントシアニンが豊富な青いお茶として日本でも認知度が高まっていますね。後者は蘇芳の木片にお湯を注いで(あるいは煮出して)抽出する木のお茶で、血の巡りをよくし、気持ちを落ち着かせる効果があるとされ、古くから用いられてきました。余談ですが、蘇芳の木はアユタヤ時代にタイから日本に輸出された重要な産物のひとつで、染料として使われてきました。 やや黒みがかった赤色を指す日本の伝統色「蘇芳色」は、この蘇芳の心材が材料です 。
さて作り方です。まずは殻のような皮をむいて、種抜きから。カービングナイフを種に沿って垂直に入れて、小刻みに動かしながら1周して種の周囲の果肉に切り込みを入れて種を抜き取ります。肉質が密なほうが種をくり抜きやすく形を保ちやすいので、イードーとビアオキアオという種類のラムヤイが適しているそうです。
次にバタフライピーと蘇芳のハーブティーを用意し、それぞれの鍋に粉寒天をふり入れて混ぜ合わせます。しばらくおいて火にかけ、沸騰させてよく溶かしたら、砂糖を加えて煮溶かします。粗熱がとれたら水気を切っておいた実に注いで、あとは寒天がかたまるのを待つだけ。そのままでもおいしい旬のラムヤイが、涼しげなデザートになりました。
ウン・ラムヤイの一粒を陽にかざすと、果肉に光が差して、寒天は雲間からのぞく空のよう。バタフライピーは明るく澄んだ秋の日の御(み)空色、蘇芳は明け方に染まる鴇色の空でしょうか。


※参考にしたレシピは、水1カップに対して粉寒天が小さじ1の割合。お好みのハーブやシロップ、果汁で色づけできますが、寒天は酸味が強いとかたまりにくくなります。蘇芳はラムヤイの成分のせいか退色しやすい傾向がありました。
寒天は、バタフライピーの花のハーブティー(左)と蘇芳の木のハーブティーで着色。蘇芳はアユタヤ時代、タイから日本に輸出された主要な産品のひとつで、染料として用いられたそうです

赤い寒天は濃く煮出した蘇芳のお茶、緑はナムキアオと呼ばれる緑色のシロップで作りました
文・写真/ムシカシントーン小河修子
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