きっかけはタイ vol.10
タイから繋がるライフストーリー
小沼 仁美 さん
◆福島県田村市役所 観光交流課勤務
タイの経験が海外に魅力を伝える
今の仕事に役立っている。
Q あなたにとってのタイとは?
タイは自分の可能性を拡げてくれる
Hitomi Onuma
1976年千葉県生まれ。昭和女子大学卒業。2016年〜2019年バンコク在住。夫がタイに赴任する2016年まで東京のドイツ系機械商社に勤務。それまで福島県在住の夫とは遠距離結婚だったが、初めての同居生活。バンコクでは、タイを知る会、琉球武団昇龍祭太鼓、バンコク福島県人会に参加。帰国後は福島県田村市役所観光交流課に勤務し、インバウンド向けに情報を発信し、イベントの企画も手がけている。
ー 日本ではご夫婦で生活の場が別々だったとうかがいました。
そうなんです。夫は郷里の福島県で勤務し、私は東京で会社に勤めていましたので、結婚以来週末だけいっしょに過ごすというスタイルの生活でした。夫の希望でタイ赴任が決まり、それで私も仕事を辞めて同行することにしました。ですので、バンコクに来てから、仕事をしない生活にも「小沼」という夫の姓を名乗ることにもとまどって、当初は私という個人はどこにいってしまったのかと心もとない感じでした。まわりには子どものいる家庭が多くて、うちは子どもがいないので生活時間が異なりますし、時間がありすぎてどう使っていいかわからなくて、そんな時期が半年から1年ほどありました。
ー タイでは様々な活動に参加されていらしたのですね。
「琉球武団昇龍祭太鼓」は、来タイしてすぐ、5月には加入していました。夫も私も和太鼓が趣味で、実はそれで夫と出会ったんです。そんなわけでタイに来る前にネットで捜して見つけたのが琉球太鼓でした。踊りながら叩く激しい太鼓です。自分の属するコミュニティーが見つかり、おかげで過ごしやすくなりました。
タイを知る会に参加
 
以前からタイの文化に興味があったことから、来タイ2年目に日本人会の同好会「タイを知る会」に入会しました。タイを知る会には準備やレジメ、会計等いろいろな係があって、好奇心旺盛で自らすすんで仕事をする人が多いので、そういう方たちの中にいたことで、私自身も積極的になれました。
ー どのような活動を?
初めての参加は王立舞踊学校の見学でした。普通は見ることのできない舞踊学校の内部や授業風景を見ることができて、もっと早く入会すればよかったと思いました。最後に関わったタイの伝統人形劇の公演は忘れられないイベントです。その頃は会の役員になっていて、サコーン劇団の公演を日本人会の別館で開催したのですが、150人の観客を入れての公演で、内容もさることながら公演にこぎつけるまでのやりとりにも参加して、素晴らしい経験をさせていただきました。
写真①:月イチで開催される田村市のマルシェで 写真②:タイを知る会で訪れた王立舞踊学校 写真③:タイの伝統人形劇の公演の日に会場で
バンコクから福島へ
ー ご帰国後は?
当初は本帰国したら東京のもとの仕事に戻るつもりで、バンコクに来て3年目まで東京に帰ろうという気持ちが8割だったんですよ。でも、いっしょに暮らしたほうが関係性がいいのは確かでしたので、夫の郷里の福島県の田村市に住む決心をしました。
帰国後、オリンピックのホームタウン制度というのがあって、福島県の会津若松市がネパールのホームタウンであるという記事を読む機会があり、それならタイに関係した何かをできないだろうかと思い始めたのです。そんな折、会津若松市で開催される鶴ヶ城ハーフマラソンンに、タイからランナーを6〜7人招致したいというお話を知人からうかがって、お手伝いすることにしました。バンコクで習っていたボイストレーナーの先生が顔の広い方なので相談したところ、SNSなどで発信してくださって、タイから参加ランナーを呼ぶことができたんです。 
同じ頃、タイのサッカー少年たちを田村市に招待しようという企画がありました。2018年にチェンライ県で洞窟に閉じ込めらたサッカー少年の事件がありましたね、あの少年たちです。救出作業の機材を寄付された会社の社長が田村市で事業をなさっていて、あぶくま洞など鍾乳洞のある田村に洞窟繋がりで招待するということでした。私もタイから帰国したというご縁で懇親会にお呼ばれし、そこで田村市と繋りができました。
その後、田村市役所の職員募集に応募して、民間企業経験枠で採用され今年4月から勤務しています。
 
タイでの生活体験が情報発信に役立つ
ー どんなお仕事ですか?
市の観光交流課に所属しています。田村市ではタイからのインバウンドに力を入れており、タイのインフルエンサーを呼んで、地域の魅力を伝えてもらったり、多言語のホームページを作って情報を発信しています。今は新型コロナで海外から観光客を呼ぶのは難しくなっているので、しばらくは国内でできること、たとえば日本国内在住のタイ人に観光に来てもらえるよう発信したいと考えています。
田村市は緑が豊かで人がいい。雲海の見える山の上のホテルもありますし、先ほどのお話で触れた阿武隈鍾乳洞の他に本格的な洞窟探検を味わえる入水鍾乳洞もあります。プラネタリウムも楽しめる星の村天文台や、日本で唯一の虫の楽園ムシムシランドも。葉タバコの生産が盛んな町で、肥料となる腐葉土にたくさんのカブトムシの幼虫が育っているのを発見したことがきっかけで、ムシムシランドができたそうです。
食べ物もおいしくて新鮮な農産物の他に鍾乳洞の水で育てたウナギの〝福うな丼〟も人気です。本場ドイツで受賞したハムや珍しいおそばも。ネパール原産の赤そばをこちらで育てていて、そのそば粉で打ったおそばがあるんです。そばは通常白い花をつけるのですが、赤そばは赤いを咲かせるそばです。
こういった田村の魅力を海外に向けて発信していくのが私の仕事の柱の一つです。タイの生活体験があることから、内容や伝え方を提案できるのも私の強みです。今思うに、タイで得たものは、タイを知る会での活動をはじめ、発信することの大切さでした。それにやりたいこと、興味のあることはやってみるということ。その気持ちが今、日本でも活きていると思います。

ー ありがとうございました。
ご夫婦ともに太鼓が趣味という小沼さん。2017年にバンコクで開催された日本人会の盆踊り大会で、お二人で櫓に上がり太鼓を披露  撮影/ジェームズ
取材・文・写真/ムシカシントーン小河修子
写真/小沼仁美さん提供
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