きっかけはタイ vol.13
タイから繋がるライフストーリー
木暮 晴子 さん
◆日タイ通訳・翻訳者 タイ語通訳案内士
音楽的で 心地よい響きの
声調言語、 タイ語が仕事に。
Q あなたにとってのタイとは?
人生の分岐器 (ターンアウトスイッチ)
Haruko Kogure
夫の赴任に同行して生後3ヵ月の長女とともに1997年に来タイ、1999年までバンコク在住。赴任前からタイ語学習を始め、タイ滞在中にポーホック(現Thai Competency Test/タイ教育省主催)に合格。帰国後、ある財団法人の通訳試験に受かり、仕事を始める。2004年〜2005年、2度目の赴任で再度バンコクに。帰国後、国家資格である通訳案内士の資格を取得。
ー タイ語との出会いは?
夫のタイ赴任が決まって、生活するからにはタイ語が必要だし文字も読めないと不便だよねと、駐在前に3ヵ月間、日泰経済協会(東京)の文字を学ぶコースに夫と一緒に通いました。もともと言葉に興味があり、英語、フランス語、スペイン語、中国語など言語を勉強することが好きでした。
タイ語の魅力は音楽的で耳に心地よい響きの声調言語である点です。後に母から「タイ語を話している時の方が優しそうで穏やか」とからかわれましたが、それもタイ語の特徴の成せる技ですよね。当時の私にとってタイ語は、アルファベットや漢字を用いない初めての外国語で、語学オタクとして新鮮味がありました。
ー その後すぐバンコクに?
夫は間もなくタイに赴任し、私は長女を出産して3ヵ月になるのを待って来タイしたのですが、なぜか不思議と「外国に行く!」という気負いも違和感もなくて親近感を覚えて「前世はタイ人?」というような感じでした。
オクサンとのお喋りも業務
 
写真①:通訳案内士としてスカイツリーをガイド中
写真②:研修生にカルタを説明(帯広で)
ー タイでの勉強法は?

娘が小さかったので週に2回家庭教師に来てもらいました。発音に非常に厳しい先生で、おかげでタイ語が身についたと思っています。タイならではの勉強方法としては、アヤさんや買い物先のお店の人、タクシーの運転手さん等、手当たり次第できるだけタイ語を使う機会を探すようにしました。それにわが家の運転手さんにも、業務として「オクサンとのお喋り」を命じていました(笑)。
駐在期間が3年あったのでポーホック(小学6年レベルのタイ語力を測る外国人向けの試験)を目標にするように勧められて勉強を進め、合格しました。
ー 帰国後は?
当時は教材がほとんどありませんでしたし、インターネットも普及していない時代ですから、タイ語がどんどん遠のいていく感じで、タイのテレビ番組のビデオをアジア食品店で借りてきてタイ語のシャワーを浴びたり、タイで活動しているNGOの翻訳ボランティアをしたり、なんとかタイとつながっていたいとあがいていました。
何年かしてある財団のタイ語通訳者試験を知り、タイ語力を試すつもりで受けたところパスし、主に研修生を対象とした通訳をするようになりました。当時のレベルでは時期尚早な部分もあったかもしれませんが、仕事としてはそれが出発点です。
ブラッシュアップの必要を痛感していた頃、再びタイ赴任の話があり渡りに船とやってきたのが2004年。1年半の滞在でした。
学年通信翻訳グループで単語集
ー 2回目はどんな毎日を?
あらゆることを吸収しようと意気込んできたので、歩きながらマティチョン(タイ字紙)を読むような気合いの入れ方で(笑)、空回りしていたところもありましたね。
日本人学校では、学年通信翻訳グループに参加して単語集を作成しました。何度も集まっては喧々諤々、語学好きが集ってわいわい作業して楽しかった。そのグループの一員としてPTA行事で王室プロジェクト見学ツアーの際にボランティア通訳として同行したのは貴重な体験でした。
息子たちが通っていた幼稚園では、タイの古典楽器キムを習っていました。キムは今も大切な趣味です。夫は同じ先生に個人レッスンしていただきソーを学びました。
また、タイ人の友達を訪ねて各地を旅行して歩き、家に泊めてもらったりしました。日本で通訳として知り合ったチェンマイの山奥のモン族の友人の自宅にも家族で泊めていただいて、楽しかったですねえ…。
幼稚園のローイクラトン祭りでキムの演奏(2005年)※
通訳を仕事にして
 
タイからの訪日団引率者と明治神宮で(中央が木暮さん)
ー 通訳案内士の資格を取得されたのですね?

国家資格の全国通訳案内士に長い間タイ語はなかったのですが対象言語になったと知り、タイ語力を測るためにチャレンジしてみようと。試験では語学力以外に歴史や地理など多岐にわたる知識が求められるので、過去問などで受験勉強をして受け、タイ語通訳案内士になりました※。

※ 全国通訳案内士/言語系資格では唯一の国家資格。訪日外国人旅行者を相手にしたプロの観光ガイドとして観光庁が認定するもので難関試験として知られる。対象言語は10言語。
ー 仕事のおもしろさは?
今日は観光ガイド、数日後には警察の取り調べ通訳、また別の日には学生交流プログラム、家では翻訳というように、まったく性質の異なる案件が続く場合があり切り替えが難しいところがありますが、それぞれに異なる大変さがあると同時に、それぞれに得るところがあると信じています。
それに普通はお目にかかることのないような方と仕事を通じてご一緒することもあり、以前、ある政府高官的な方のアテンドを4〜5日間担当させていただいたのですが、その間にその方の人間性と教養に触れて多くのことを学ばせていただきました。また、歴史的な瞬間に立ち会う得難い経験をすることもあります。
ー 夢をお聞かせください。
あくまで夢ですが、いつかタイ音楽を教えたり演奏したりする場を作りたいです。もうひとつは密やかな野望なのですが、タイとタイ語に関する本を出してみたい。これはもはや公言できないレベルの、夢また夢ですが…。
ー ありがとうございました。
 
フリーペーパーDACO(2007年)で特集『アヤさんとの「孫の手」会話集』を執筆
日本人学校の学年だより翻訳ボランティアグループに参加して、みんなで作成した単語集
取材・文・写真/ムシカシントーン小河修子
写真(※以外)/木暮晴子さん提供
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