きっかけはタイ vol.18
タイから繋がるライフストーリー
長野 京子 さん
◆マイパル(株)代表取締役社長、サケ・ラバーズ(株)・発酵牧場(株)取締役
海外から訪れる人たちに
日本文化の魅力を伝えたい。
Q あなたにとってのタイとは?
第二の祖国
Kyoko Nagano
1969年、父の赴任地の韓国ソウル市で生まれる。サウジアラビア、アメリカで幼少期を過ごし12歳で日本に。2011年~16年、駐在員の夫と子ども2人と共にタイ在住。日本人会の青少年サークルの世話役、英検ボランティア、インター校のPTA役員等のボランティア活動に従事。日本文化の魅力を再確認し、本帰国後に茶道や生花などを学ぶ。訪日外国人が日本文化を体験できる仕組みを築き、インバウンド向けの日本文化紹介を業務とするマイパル株式会社を立ち上げ、現在はサケ・ラバーズ(株)、発酵牧場(株)の取締役を兼任。
ー 幼い頃から海外生活だったそうですね?

父の任地のソウルで生まれて、その後はサウジアラビアとアメリカ。小学6年の夏に本帰国して初めて日本の学校に通いました。

ー 日本の学校に馴染めました?

小学校では「ガイジン」というあだ名で呼ばれました。あと半年で卒業するタイミングでの転入だったので、ランドセルは買わずに普通のバックパックで通学して他の子と違ったこともあったのでしょう。中学は帰国子女クラスのある私立の女子校に進学し、世界中のあちこちの国で生活経験のある子たちと一緒だったので、そんなことはありませんでしたが。

日本文化を深く知りたくなった
 
ー その後は?

日本で大学卒業後に総合商社に就職しました。結婚後に夫の転勤でアメリカに行き、その後日本に戻って、2011年から5年間家族でタイに暮らすことになりました。

タイに来たとき子どもは小3と小6で、上の子がインターを希望したのでハローインターナショナル校に入学し、下の娘は日本人学校に通っていたのですが、兄の楽しそうな様子を見て同じ学校に転校しました。

学校にはインターナショナルデーという、それぞれの国の生徒や親が自国の文化や食べ物を紹介する学校行事があって、私はPTAの役員をしていたので日本人の保護者をまとめ、浴衣や書道、茶道などの日本文化の紹介をしました。そういうときにタイや他の国の方から「着物にはどんな種類があるの?」とか「茶道の流派はいくつあるの?」という質問を受け、想像以上に日本文化に興味を持つ人が多いことを知り、それで日本のことをもっと学んでしっかり紹介できるようになりたいと思うようになりました。



ー バンコクでの生活は?

日本人会のチャリティーバザーの裏方や、英検ボランティア、青少年サークルの世話役などボランティア活動をやりました。私は元来、誰かのお役に立つのが好きな性分ですし、そういう機会に出会うのはボランティア精神がある方たちで、そんな人たちと繋がって人間関係が広がったことで、バンコク生活が豊かになりました。

他にはタイ料理やフルーツカービング、ムエタイなど様々な習い事をして楽しかったですよ。特にタイ料理は大好きで、今もホームパーティーのときなど友人たちからリクエストされます。

右:バンコク時代、インター校のインターナショナルデーに日本ブースで浴衣や茶道体験を企画

左:新潟の造り酒屋で


造り酒屋で麹の仕込みを体験する人気の酒蔵ツアー

茶道や華道の先生のSNSを英語でアップ
ー 帰国後は?

外資系の企業に就職して役員秘書として働くかたわら、タイにいるときから学びたいと思っていた茶道や華道などを習いました。素晴らしい先生方とご縁をいただき、お稽古に通ううちに「最近、あまり若い子たちは来ないのよ」という話を聞くことに。せっかく誇るべき日本文化があっても、それを継承する人が少なくなっていることが、先生方の共通の悩みでした。

ワタシは海外にいたことで日本文化の素晴らしさに気づかされたし、もっといろんな人に知ってもらいたいという気持ちがありました。先生方は本当に素敵な方が多かったので、もし外国の人が来るようになったら、ご近所の人をはじめ若い人たちも興味を持ってくれるのではないかと思い、インバウンドの旅行者が利用するAirbnbエクスペリエンスやトリップアドバイザーなどに、私の語学力を使って代行掲載してはどうかと考えたのです。お稽古も先生も魅力的なのに、言葉の壁と、外国の方がどんなところに興味を持つのかわからないこともあり、先生方にはアピールが難しいのです。

例えば茶道は用意から終わりまでの一連の作業がおもてなしになっていて、お客様がいらっしゃる前に先生はお抹茶がダマにならないようにふるっておき、棗の真ん中にこんもりと盛り、茶室には季節の花や軸ものをしつらえます。見えないところにも美しさがあって、気配りに満ちていて、でも決して声高に主張することはない。そんなところが日本の美であること、それを日本人の心が見えるように丁寧に説明しました。見えないところにある美しさや気配りはやはり言わなければ伝わらないですから。

それに、よくある問い合わせをあらかじめ英語にしたものを作って、お教室での説明なども英訳しておき、先生方に練習してもらい、最初の3~4回は私も参加する外国の方に同行することにしました。何か月かすると先生方の英語力が格段にアップしていてうれしかったです。

埼玉県狭山の茶園のお茶摘み体験に外国人旅行者をご案内。前列右から3人目が長野さん
やって失敗したほうがいい
ー その後起業されたのですね?
はい。先生方のお手伝いができればとボランティアで始めたことが、ビジネスになっていきました。16人の日本文化のスペシャリストをフォローしたのですが、みな私がお習い下先生とそのお知り合いで、ある茶道の先生は月に200人もの申し込みがあって驚かれると共にとても喜んでくださいました。そのうちに料金の10%を謝礼としてくださるようになったのです。こちらのほうが忙しくなり、勤めを辞めてインバウンド向けの日本文化紹介を業務とするマイパル株式会社を立ち上げました。
迷いは?
基本的に私は、私にできることで意味のあることをやりたいと思っていて、やらないよりやって失敗したほうがいいという考えで生きてきました。
ー 現在タイに暮らしている女性たちにアドバイスを。
仕事のブランクを気にする必要もないし、むしろ強みと思ってチャレンジしてほしいです。海外の生活経験を評価してくれる会社もありますし、ワードやエクセルだってバージョンアップしていて今のほうが簡単です。
ー ありがとうございました。
取材・文/ムシカシントーン小河修子  写真/長野京子さん提供
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