きっかけはタイ vol.28
タイから繋がるライフストーリー
島本道子 さん
◆認定薬剤師 ME/CFS支援ネットワーク理事
サービスすること企画することの
楽しさを知ったすくすく会活動。
Q あなたにとってのタイとは?
私の世界を
広げてくれた場所
Michiko Shimamoto
1976年鹿児島生まれ、大阪育ち。武庫川女子大学薬学部卒。妊娠出産まで薬剤師として働く。2014年、帯同家族として4歳の長男と共に来タイ。誘われて「出産準備教室」のボランティア活動を始める。子育て支援グループ「すくすく会」においてキッズルームの立ち上げに参加し、母親向けのイベントを企画開催。悩みを持つタイ在住者の力になれる組織をと、有志と共に「みんなの相談室」の設立に尽力。2019年本帰国。子息のコロナ後遺症罹患を機に患者支援団体ME/CFS支援ネットワークのボランティア活動に関わり、現在、同団体理事。
始まりは出産準備教室
- 日本人会のボランティアはどのようなきっかけで?
 タイに来るまでの38年間、私はボランティアをしたことがなくて、むしろボランティアしてもらいたいと思っていたくらいの人間でした。タイに来た当初は気候に慣れなくて身体がしんどくて、息子が幼稚園に行ったらゴロゴロ。もともと外に出たいタイプではないのです。

 ところが、人手が足りないので手伝ってと誘われて参加することに。夫の会社には海外赴任が決まると、その国に駐在経験のあるご家族を紹介してくれる制度があります。私もタイに滞在されていた奥様から話をうかがい、さらにその方が当時タイに帯同中の奥様を紹介してくださってとてもお世話になっていました。その方が出産準備教室のボランティアだったのです。

 出産準備教室は助産師や看護師の経験者もいて、私も子どもができるまで薬剤師として働いていましたから、同じ医療業界ということでなんとなく通ずるところがあり仲良くなって、本帰国までの5年間ずっと続けました。
キッズルームの立ち上げ
 皆さん帯同で来ているのでメンバーの入れ替わりが早くて、常時人手不足だったことから、参加してすぐに中心的な役割を担うことになり、すくすく会全体のミーティングに出席することになりました。当時は『すくすくだより』編集部などいくつかのグループがありました。
- キッズルームの立ち上げメンバーと聞いています。
 あるときミーティングで「子どもを遊ばせる場所、ないよね」という声が。公園は日中暑いし天候に左右される。ショッピングモールに遊び場はあるけれどお金がかかる。その声から、気軽に子どもを遊ばせることができて、金銭的に負担が軽く、クーラーがあって、お母さんたちもラクな遊び場として「キッズルーム」の企画が立ち上がりました。日本人会の会員なら、すくすく会の会費*を納めるだけで何度でも利用できる遊び場です。当時から懸案となっていた日本人会会員増とすくすく会会員増のためにもなる企画でした。

 おもちゃがあるだけではみんな来てくれないだろうということで、イベントをやることになり、「お母さん向けヨガ」、「ベビーマッサージ」、「カラー診断」、「英語であそぼう」などを企画しました。こんなことをやったらどうかと思いついたらやってみる。うまくいくこともあるしだめなこともあるけれど、それがとても楽しかったですね。

 バンコクにはいろいろな能力のある方が帯同家族としていらっしゃいますから、イベントの指導者にも恵まれて、みなさんボランティアで教えてくださったんです。
 
オープン直前のキッズルーム
上:「両親学級での沐浴の練習。息子もスタッフ見習いとして私の横に。ボランティア活動に息子を連れて行けたことも、親子にとって良い経験です」と島本さん
下:キッズルームイベント
みんなの相談室
- みんなの相談室の設立についてお聞かせください。
 すくすく会の活動の一つとして相談の場を設けていました。あるとき、利用されたことのある方が亡くなるという悲しい出来事があり、心の問題には専門家が必要であることを痛感したのです。そして「こころのでんわ」との繋がりを得ました。

 タイに住んでいる悩みを持つ方の力になりたいと、有志が集まって「みんなの相談室」設立に向けて動き出しました。活動内容は日本での有資格者が一対一で応じる「相談」。もう一つは気軽に誰でも参加できるおしゃべりサロン「お茶会」です。

 私は立ち上げの初期に関わり、2019年1月の設立前に本帰国になりました。今回改めてホームページを見たのですが、しっかりした活動をされていて感動しました。
にぎやかなキッズルームで。左端の用紙を持っている女性が島本さん
ボランティアの楽しみ
- ボランティアの魅力とは?
 私にとってタイでのボランティアは、子育てしながらチャレンジできる勉強の場でした。いろいろなことをやってみるハードルが日本よりずっと低いです。

 様々な能力をお持ちの方が多くて、私はパソコンもまともに使えなかったのですが、バンコクで新しいパソコンを買って、若いスタッフに聞きながらホームページを作れるようになりました。スタッフの中にシステムエンジニアもいらっしゃったんです。いろいろな人と知り合って接したり話したりすること、初めてのことをやってみること、そういったことすべてが楽しかったですね。苦手な家事もタイではアウトソーシングできるので、全力で活動に没頭することができました。
- 本帰国後は?
 2019年3月に帰国して薬剤師として働き始めたのですが、息子がコロナ後遺症を発症し体調が悪いことから退職しました。それを機にME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)支援ネットワークという団体のボランティア活動を始め、現在は当事者家族として関わっています。病気のことを広く知ってもらい、情報収集しME/CFS患者が暮らしやすくなるようにする活動です。当会ホームページのリニューアルを業者に委託した際、すくすく会でやっていたことがとても役立ちました。

 私は右も左も分からないまま、タイでボランティア活動を始め、やってみたらおもしろくなっていったのです。むしろボランティアしてほしいと思っていた私が、自分がサービスすること、企画することの楽しさを味わうことができました。

 ですから、イベントを作ってみませんか?とすくすく会で募集して実際に形にするという試みはいかがですか?
- おもしろそうな企画ですね。ありがとうございました。
*すくすく会入会費:年350B(2025年現在)
取材・文/ムシカシントーン小河修子 写真/水越美枝子さん提供
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