きっかけはタイ vol.1
タイから繋がるライフストーリー
鈴木 真名子 さん
始まりはバンコク。
サワディー文庫を 引き継いだ経験が
図書ボランティア、 司書資格の挑戦に。
Q あなたにとってのタイとは?
私にもできることがあると
気づかせて くれたところ
Manako Suzuki
1964年生まれ。上智大学卒。2002年8月、幼稚園と小学校の子どもを連れて帯同家族として来タイ。住居のコンドミニアムの家庭文庫「サワディー文庫」を前任者から引き継ぎ、文庫活動を始める。2005年に帰国後、子どもたちが通う地元の小学校に図書ボランティアを申し出て、当初は一人で活動。2013年、図書館司書の資格取得のため大学の通信講座で学び、司書資格を取得。子どもたちが卒業して久しい現在も小学校で図書ボランティアを継続中。
ー バンコクには2002年から2年半在住とのこと。当時はいかがでしたか?
夫の赴任に伴いバンコクで暮らすことになったのですが、まず胸をよぎったのは不安。小学3年と幼稚園年長の2人を子育て中だったので、生活の変化が不安でした。バンコクに落ち着いて間もなく日本人会に入会したのですが入ってみて大正解。子ども図書館とヨガ同好会に通いました。子ども図書館では娘たちに本を借りるだけでなくて、私自身も読み耽っていたんですよ(笑)。
ー 子ども図書館で?
そうなの(笑)。私は子どもの頃から本が好きでした。石井桃子さん(※1)が始めた「かつら文庫」が家のそばにあったので小学生の頃よく通い、そこで本好きに。私にとって絵本や児童書を読むことは自然なことで、今でも大人の小説より児童文学の方が好き。本質的なことがピュアに入っていますから。
※1:児童文学作家、翻訳家。著書に『ノンちゃん雲に乗る』訳書に『クマのプーさん』など作品多数。日本の家庭文庫活動の始祖のひとり。
ー その体験から家庭文庫を?
いえ、当時住んでいたコンドミニアムにサワディー文庫(※2)という家庭文庫をやっていた方がいて、その方が帰国されることになり「だれか引き継いでくれる人いない?」と言った途端、次女が「ハーイ」と手を挙げてしまったの。そんな経緯で考える間もなく引き受けることになりました。
※2:1988年頃にバンコクの駐在員家庭で始められた家庭文庫。多いときには七つの家庭でサワディー文庫が行われていたという。


ー 具体的にどんな活動を?

文庫は月に2回で、本の貸し出しの他に、絵本の読み聞かせや人形劇、工作です。季節ごとに折り紙を折ったり、12月には紙皿でクリスマスリースを作ったり。親子で参加する方が多くて、10〜20組は来ていたのではないかと思います。壁の一方に5台の本棚を並べ、ダイニングテーブルで工作をしました。サワディー文庫は当時5カ所のコンドミニアムでやっていて、定期的に集まってミーティングをしたり、1台の本棚を順繰りに回したりしていました。

 
サワディー文庫の本棚が5台並んだ鈴木さん宅 ※
ー けっこう大変ですね…
私は子どもが好きで、子どもの本が好き。二つの好きなものと触れ合うことができて、しかも好きな本を子どもたちにすすめることのできる文庫活動は想像以上に楽しかった。絵本や児童書がいつも家にあるのもうれしくて、思い返せば文庫を開けていないときも、本に触っていましたね。幼児用の本は小さい子の手の届くところに並び替えたり、触れているだけで楽しかった。
ー たまたま引き受けた文庫を通して、長い間顧みることのなかった「心から好きなこと」を再発見したということなのでしょうか。
そのとおりだと思います。サワディー文庫をうちでやっていたのは1年くらいかな。本帰国が決まって、同じコンドミニアムの人が引き継いでくれました。
学校の図書ボランティアに志願
ー 帰国後の仕事のことは?
当時、仕事は考えていませんでした。帰国して娘の学校の先生が家庭訪問でいらしたときに、学校図書館のお手伝いを申し出てみました。本の修理や整理などできることはなんでもという気持ちでした。子どもの本と関わっていたかったのですね。
受け入れてもらえることになり図書室に行ったところ、本の背は陽に焼けてタイトルは見えないし、分類されていなくてバラバラ。司書はクラスを持つ先生が兼任していて、手が回らない状態だったのです。書架の整理や、消えかけた背表紙をマジックで書き直したりすることから手伝い始めました。それが一人で始めた最初のボランティアです。その後、学校の方針が変わり様々な分野でボランティアが活動するようになり、図書ボランティアは現在約30人。朝の時間に読み聞かせをしたり、おすすめの本を掲示したり、そんな活動をしています。
司書資格への挑戦
ー 司書資格を取得されたと伺いました。
ボランティアを続けるなかで司書資格をとっておけばよかったと感じていたところに市が学校司書を雇用すると知り、資格があったほうが有利だと思い2013年に大学の通信講座を始めました。勉強はきつかったです。レポートを書くのは何十年かぶりで、そんな私が2000字のレポートを何本も書かなくてはならなかったのですから。大学の教科書はチンプンカンプンな言葉が並んでいて難しくて、本好きだけでは済まされないことが嫌というほどわかりました。 翌年に司書資格を取ることはできたのですが、ちょうどその頃、介護が重なり、司書としての就職はあきらめました。
今は、学校の図書ボランティアとともに、公立図書館で週に2、3回アルバイトをしています。司書資格とは関係のない仕事ですが、好きだから。家庭の事情で司書にはなれませんでしたが、勉強したことに自分自身で満足できたから、よかったと思っています。
ー これからやってみたいことは?
やはり家庭文庫。本当にいいお話というのは、たとえ(筋を)忘れても生きていく上で「心の核」になるもの。そういう本との出会いの場、子どもたちが安心していることのできる場を作りたいですね。
タイ在住時よく利用していた子ども図書館を久しぶりに訪ねた鈴木さん。当時幼かった次女は昨年タイ語を学ぶために留学。その娘さんは鈴木さんの図書活動を「母の天職」と言う
ボランティアをしている学校の図書室で ※
 
取材・文・写真/ムシカシントーン小河修子
※の写真は鈴木真名子さん提供
Copyright © Japanese Association in Thailand. All Rights Reserved.