煉炭の掘りごたつを出すと、明治生まれの祖母は時折、甘酒を仕込みました。米麹と柔らかいご飯を入れた壺を、タオルやネルの古布でくるんでこたつの隅に置くのです。小一日くらいだったでしょうか。麹の香りがもれてくると完成間近です。
煉炭ごたつなので適温(55度から60度くらい)を保てなかったのか、酸味のでることもあったような。味の記憶は曖昧ですが、着物の祖母がこたつがけをめくり膝をついて壺を出し入れする姿は、私にとって冬の風物詩です。
冬の飲み物として親しまれている甘酒は、江戸時代には夏バテを防ぐ養生食だったそうです。ブドウ糖、ビタミンB群、必須アミノ酸などを含み栄養価が高く、周知のように「飲む点滴」と称されています。とすれば常夏のタイでは好適な栄養ドリンク(食)では。
中国圏や韓国、東南アジア地域でも甘酒は作られており、タイの甘酒はカオマークです。地域にもよりますがコンビニでも買える身近な存在です。液体より米のつぶつぶが多くスプーンで食べるので、飲むというより「食べる点滴」でしょうか。
日本のものと香りや旨み・甘みにそれほどの違いはありませんが、異なるのは材料。日本では一般的に炊いたうるち米(もち米のことも)で作りますが、タイではたいてい蒸したもち米を用います*。
さらにもう一つ異なるのが麹。日本の米麹は蒸した米に麹菌ニホンコウジカビを繁殖させたものですから、米の一粒一粒に胞子が生えた状態。タイをはじめ麹を使う他の国では、米(穀物)を粉にして練りかためたものに菌を植えつけた餅麹で、菌の種類はクモノスカビなどだそうです。
タイの餅麹(手前)と日本の米麹(乾燥ばら麹)
日本の国花は言うまでもなく桜と菊、国鳥はキジですが、菌にも国の代表がありました。甘酒や日本酒などの元になるこの麹菌ニホンコウジカビが、日本醸造学会により20年ほど前に「国菌」と認定されています。門外漢にはピンときませんがアスペルギルス属のカビだそうです。ちなみにタイの国花はゴールデンシャワー、国鳥はキジ科のシマハッカン(タイ名:ガイファー・ランカオ)。国菌の有無は不詳です。
*米麹甘酒の材料は一般的に米麹・炊いたご飯・水だが、米麹と水だけで作ることもある。また玄米やサツマイモを使ったものもある。カオマークは通常、蒸した餅米を水洗いし、細かく砕いた餅麹と混ぜ合わせて発酵させる。